あんじょむし 164• 大將いといたく心げさうして御前のことごとしくうるはしき御心みあらむよりも今日の心づかひは殊にまさりて覺え給へばあざやかなる御直衣、かうにしみたる御ぞども袖いたくたきしめて引きつくろひて參り給ふほどくれはてにけり。
御供にわれもわれもと物ゆかしがりてまう上らまほしがれどこなたに遠きをばえりとゞめさせ給ひて少しねびたれどよしあるかぎりえりてさぶらはせ給ふ。
その中にも、やむごとなき御願ひ深くて、前斎院などをも、今に忘れがたくこそ、聞こえたまふなれ」 と申す。
夜の更け行くままに、物の調べども、なつかしく変はりて、「遊びたまふほど、げに、ねぐらの鴬おどろきぬべく、いみじくおもしろし。
あさてばかりは逢坂とぞある。
さる用意せよ」などぞ、いひたるを見て、うたて心幼くおどろおどろしげにや、もしいな 〈一字でたカ〉つらむ、いと物しくもあるかな、けがれなどせば明日明後日なども出でなむとするものをと思ひつゝ、湯の事急がして道にのぼりぬ。
それも同じほどのわらはにて我が甥なり。
さて「さ 〈よカ〉は明けぬるを人など召せ」といへば「なにか。